なぜ大学院で研究しようと思ったか
-潜在問題意識があるきっかけで急浮上-
埼玉大学大学院の入学以前、私は勤務先のシンクタンクで金融分野の研究開発・コンサルティングに従事し、部室長として多忙な毎日を過ごしていました。研究成果として集大成に取り組みたいテーマは思い抱くも、忙しさに流されてきっかけをつかめずにいた中、地元の駅伝大会に出た際に故障をして数日入院しました。多忙な生活が一時中断されて、今までの人生でやり残していることを考えた時、「博士論文」が強く浮かび上がったのが、大学院での研究に意を決した瞬間でした。
どのようなテーマで研究をしたか
-銀行業の競争度合いを評価し影響を分析-
日本の銀行業は長らくオーバーバンキング(銀行過剰)と言われる一方で、近年では地銀合併による寡占化が問題となるなど、競争度の見方や寡占化の影響について諸説が整理されていないと認識し、この問題の解明に取り組みました。先行研究調査を通じて競争度の計測指標を評価・選定した上で、全国の金融機関店舗リストを用いて地域別の競争度を計測するとともに、金融機関の合併や店舗配置変更等に起因する競争度の水準変化が利用者および金融機関経営に及ぼす影響について分析しました。
どのように研究が進んだか
-講義・ゼミ・学会報告・外部寄稿に注力-
伊藤修先生と長田健先生が主宰される日本経済金融の月例研究会(ゼミ)に参加して、博士論文のパーツ原稿や学会報告の素稿を発表し、先生方や研究仲間から多くのご指摘や改善提案を受けました。博士後期課程の講義は少人数で個別指導が行き届きます。長田健先生の講義で海外トップジャーナルの輪読と報告にじっくり時間をかけて取り組んだことは、先行研究を理解するスキル向上に大変役立ちました。丸茂幸平先生には講義の際の個別相談に加えて、研究室を訪問して論文構成等について詳細なご指導も頂きました。 博士後期課程中には本学内での発表や個別相談のほか、学会報告、査読付き論文の投稿、専門誌寄稿などを積極的に行いました。こうして自分自身の研究を密室化させずに多くの専門家の目で見ていただくことは、研究のモチベーションと緊張感を高めるとともに、研究内容のレベルアップや自分自身の誤解等の点検に大いに役立ちました。
実際にどうやって仕事と両立したか
-研究と仕事を意識的にリンク-
博士後期課程は、修士課程とは違って履修する講義コマ数は少なく、講義出席のための時間確保で苦労を感じることはありませんでした。講義やゼミは東京ステーションカレッジ(銀座線神田駅から徒歩2分)で平日夜間・土曜日に開講されるので、社会人学生にとっては助かります。
社会人学生の場合、職場での折り合いを心配して就学をオープンにするかどうか迷う方もいらっしゃると聞きますが、私は意識的にオープンにしました。誰にも迷惑をかけずに長丁場の研究を成し遂げることは難しいため、それならば職場や家庭など身の回りの方々には研究活動を知っていただき、研究に必要な迷惑?ならば受け入れてもらう方が潔いと思ったからです。私の場合、仕事内容と研究内容の関連性が元々あったため、専門誌への寄稿などによって仕事と研究とのリンクを更に高めました。こうすることで、仕事での気付きが研究活動の改善に役立つと同時に、研究活動での学びが仕事の品質向上に寄与するという相乗効果がもたらされます。
研究をしてみて、どのようなことが得られたか
-研究し続けるパスポートを得る-
日本の金融業界では人員削減機運が高まりを見せる中、将来的には実務経験を活かしてセカンドキャリアで大学教員を考える方が増えるかも知れません。大学としても実務家教員へのニーズはありますが、アカデミックの業績も重要であり、実務と学術の両方が求められます。学位取得が、学術面での能力の証となることは言うまでもありません。
私の場合、本学在学中に私立大学で金融分野の専任教員に奉職することになりましたので、少し変わったケースだと思いますが、博士後期課程の研究活動として学会報告や査読付き論文発表が進捗していて、学位取得の取り組みが順調である点が評価されたことは間違いありません。本学での研究活動がなければ、違った人生を歩んでいたことでしょう。本学で私がご指導いただいた研究室では特に、修了後の大学非常勤講師への就任や査読付き論文の発表、共著出版など、いろいろな側面で応援をしたり助け合う雰囲気があり、非常勤の教歴や研究実績を積み重ねて、大学教授になった先輩が多数いらっしゃいます。
後期課程在学中、本学の先生方からは「博士号を取得した後に何をなすのかを長期スパンで考えよ」と度々言われました。忙しい社会人学生としては、学位取得をゴールだと捉えてしまいがちですが、博士号は取得することが最終目的の資格ではなく、高品質の研究を継続するためのパスポートなのです。本学在学中、学位取得後を見据えたご指導を頂いたことの素晴らしさを大学教員として今、改めて認識します。