なぜ大学院で研究しようと思ったか
きっかけは、入学の前年に埼玉大学大学院の入試説明会・学術講演会に参加したことにあります。
私は、埼玉大学大学院博士前期課程への入学の約10年前に、社会人を対象とする夜間開講の金融戦略・経営財務に特化した専門職(修士課程)を修了しており、社会人向け大学院の経験がありました。
ただし、専門職大学院では、専門的職業人として必要な知識、理論及びそれらの活用法の習得を目指すのに対し、学術的な研究能力の育成を目指す大学院では、研究を通じ、新たな知見を見出すための知識や能力の習得を目指しており、両者には大きな違いがあります。前者は、既に見出された知見を利活用する美食家(gourmet)の育成を目指し、後者は新たな知見を見出すシェフ(chef)の要請を目指すものであると考えると、両者の違いを理解しやすいかもしれません。
私は、自分自身が新たな学術的知見を見出すことは難しいと考えておりました。しかし、前述の埼玉大学大学院の入試説明会・学術講演会において、社会人が自らの経験・知見基づいた
「小さく絞って、そこのところであれば誰にも負けない」 といったテーマを持ち込み、適切な方向性で研究に取り組むことで学術的な成果を出すことは不可能ではないとご説明いただきました。もし、私自身が、何らかの形で学術的知見を見出せるようになるのであれば、大変やりがいがあり、また、有意義なことであると考えました。
そして、このようなスタンスで、学術的知見を見出せる社会人の育成を目指し、東京都内で平日夜間及び土曜日に開講している埼玉大学大学院に関心を持ち、同大学院で研究しようと思いました。
どのようなテーマで研究をしたか
私は、勤務先で、上場の不動産投資信託(J-REIT)や私募の不動産ファンドの関連業務に従事しています。この実務から生じた問題意識に基づき、従来から存在した実物不動産市場に加え、より情報効率性が高いJ-REIT市場が登場したことの影響・意義や、実物不動産市場とJ-REIT市場の融合関係についての研究を行いました。
どのように研究が進んだか
私は、専門職大学院の修士課程を既に修了していたため、博士後期課程への出願資格もありましたが、修士課程修了から既に約10年以上経過していました。そのため、「修士論文作成プログラム」、「課題研究プログラム」、「インテンシブプログラム」のいずれであれ早期に学術研究を本格的に行える環境に入りたいと考えていたこともあり、博士前期課程に出願しました。
入試の結果、インテンシブプログラム学生となりましたので、後期課程と直結する3名の指導教員(主指導教員:長田健先生、副指導教員:伊藤修先生及び丸茂幸平先生)による教育・研究指導をベースとして研究が進みました。
指導教員による個別指導に加え、ゼミや研究会での議論や各種講義を踏まえ、研究方針等を明確にしていきました。また、別途履修した各科目も研究に活かすことができました。
さらに、インテンシブプログラムの修了要件の1つである査読付き論文の完成に向けて経済科学論究に論文を投稿した際には、匿名の査読者より、私自身が全く認識していなかった複数のポイントをご指摘いただきました。
実際にどうやって仕事と両立したか
社会人大学院生にとって、仕事との両立は大変重要です。仕事との両立のため、時間の有効活用と取組み事項の優先付けに心がけました。また、若かった時と比較して、体力が落ちていることから、体調管理にも留意しました。
研究をしてみて、どのようなことが得られたか
社会人が学術研究を行う上では、やはり、実務経験に基づく独自の知見や問題意識が重要であり、そして「小さく絞って、そこのところであれば誰にも負けない」といったテーマを持ち込むことが最初のステップであろうと、あらためて認識いたしました。
埼玉大学大学院では、社会人が持ち込む様々なテーマについて、それが十分検討され、また十分に絞り込まれた内容あれば、極力受け入れていただける方針であるように思います。入試説明会・学術講演会をきっかけとして、埼玉大学大学院における学術研究の機会を得られたことは、大変幸運であったと考えます。
また、私自身、自分のテーマに関する学術研究を進める過程で、主要なテキスト等の学習を進めるだけでは、学術研究には、いつまでも結びつかないと強く感じました。この点について気づかせていただき、学術研究を進めるうえでの具体的道筋を示していただいたことにも、大変感謝しております。